アナウンサーコラム

アナウンサーコラム第6回 村田智啓アナウンサー

歴史が生まれる背景には、“ドラマ”がある。

それは、決して“幸福”だけの物語ではない。

去年の夏、初めて決勝の舞台に立った「袋井」。
静岡の高校野球史に、新たな歴史を刻んだ。

原動力になったのは、
エース・稲垣淳之介(いながき じゅんのすけ)。

スラッとした体型に、端正な顔立ち。
飄々としたマウンドさばきで、
夏の快進撃を引っ張った。

話を聞くと、決まってこう言っていた。
「みんなで、夏の頂点に立ちたい。僕はひとりじゃない」

そんな稲垣は、栄光の影で、人知れず苦しんでいた。

決勝前日の夜、腕の疲労が、限界を迎えていた。

準決勝まで1人で投げ、球数は611…
蓄積した疲労が、大一番の前に悲鳴を上げた。
当日になっても状況は好転せず…
キャッチボールさえ、満足にできなかった。

「ここまで来て、仲間に迷惑をかけるわけにはいかない」

エースとしての“プライド”と“仲間への想い”。
支えられてきたからこそ、チームメートに伝えることはできなかった。

一方の仲間たちも、その異変には気付いていた。

「この夏のミラクルは、稲垣なしでは成し得ない」

稲垣への信頼感のもと、黙って、そのピンチを一緒に背負った。
チームメートは、「気付いている」と伝える代わりに、こんな言葉をかけた。

「今日は、俺たちが打って、お前を助けるから」

稲垣の心のしこりは消えた…僕はひとりじゃない。

優勝こそ果たせなかったものの、
袋井は“記録”ではなく、“記憶”に残るチームだった。

現在、大学で野球を続けている稲垣は、
この夏の出来事が、今の原動力になっているという。

「仲間の支えが実感できたからこそ、無念の方が大きい。
あの時の仲間の悔しさも背負って、より高みを目指していく」

人生は、上手くいかないことの方が多い。

しかし、周囲の“支え”に気付くことで、
人は“挫折”や“後悔”を、プラスに変えて強くなっていく。

稲垣のように、この夏の経験から、大きく成長する球児がいる。

そんな選手たちを見届けながら、
この夏も、自分なりの“ドラマの主人公”に出会いたい。

続いては、広瀬さんです。

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